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新刊『GLアイドル』発売開始! 試し読みも掲載中!

ついに、完全完成したKindle新刊『GLアイドル』。こちらの本の試し読みページです。ぜひともチェックよろしくお願いします。

 

KDPセレクトの規約にのっとって、販売作品『GLアイドル』の10%までを、ブログ上に試し読みとして掲載します。
( )内のひらがなは、Kindle本ではルビとして表示。 

 

GLアイドル

GLアイドル

 

 

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『GLアイドル』(著)水沢みと

 


第一話「さいは投げられた」


「困りましたね……」
 芸能事務所ゆうきプロダクションの会議室では、先刻から重たい空気が流れている。
 机の上に広げられた写真週刊誌。開かれたページには、大きな見出しで『ゆうきプロの人気アイドル、またもや不純異性交遊発覚!』とでかでかと書かれていた。
「今年に入って三回目か」
「もう『ラビッツ』を推していくのは無理です。彼女たち八人には酷ですが……これだけスキャンダルが続くと、もはやCDを買ってくれる男性ファンの数も激減ですよ。次回作も出せるかどうか……」
 スタッフは、憂鬱な面持(おもも)ちで話す。
「……よろしい。わかりました」
「新条(しんじょう)さん?」
 それまで黙って話を聞いていた、赤系の髪の女性が口を開く。
 華やかな印象を人に与える、二十代に見えるその女性は、ゆうきプロダクションの気鋭のプロデューサーだ。
「私に、妙案があります」
 新条令子(しんじょうれいこ)は、口の端に妖艶(ようえん)な笑みを浮かべた。
 その日のうちに、会議で決定した新プロジェクトの発足。その名は『GLプロジェクト(仮)』。
 新条プロデューサーの鶴の一声で決まったこのプロジェクトに、少女たちは運命をかけていくことになる。

         ◆

 御子柴悠里(みこしばゆうり)は、最近お気に入りのガールズアイドルグループが表紙という理由で買った雑誌の三ページ目の広告で、それを知った。
 内容は、よくある新人アイドルグループのメンバー求む! といった文章だったが、悠里の心に雷を落とすような惹句(じゃっく)がそこには記載されていた。

 

 募集条件はただ一つ。『同性が好きな女の子』であること。

 

 ベッドの上で寝そべっていた悠里は、ざっと起き上がって正座して広告のその一文を繰り返し繰り返し読んだ。何度読んでも間違いない。
 ――これは、アタシの為に神様が与えてくれたチャンスなんですね?
 御子柴悠里は、感動でしばらく身動きできなかった。
 チョコレート色の短髪にパーマをかけた、外国の少年のような風貌の悠里は、ボーイッシュで端正なルックスの持ち主だ。
 オシャレに敏感で、髪のセットがうまくいくと、機嫌よくその日を過ごせる。
 そして、幼少の頃から、自然と『女子の方が好き』な女子だった。
 一見するとオラオラ系に見えて、内心はヘタレ……である自分を見透かされないように、クールぶってみたりして。
 女子にモテない訳でもなかったが、ビビリなので、そういう関係にはならずにきた。
 だが、彼女の心のどこかではいつも、『素敵な女の子と堂々と付き合いたい』という願望があった。
「これ、めっちゃチャンスじゃんか!」
 その日のうちに応募書類を用意して、郵便局に持ち込んで出したのであった。

 


第二話「それぞれの場合」


 東郷麗華(とうごうれいか)のことを一目でも見たことがある者は、その圧倒的なオーラの前に、ひれ伏すように見上げる好意か、逆に嫉妬に由来する嫌悪の感情を抱かざるを得なかった。優雅で気品のある立ち居振る舞いは、只者ではないことを瞬時に伝え、何よりロングのストレートの黒髪をなびかせた彼女の美しい顔立ちは、天が与えた選ばれし人であることを示した。彼女自身も、自分の美貌に対して尊厳を持つことをはばからなかったし、それと同時に、極端に相対(あいたい)する他者との距離感について、少なからず悩むところもあった。それゆえに彼女を知る人の間(あいだ)では、東郷麗華への評価は『孤高』とされた。

 

 昼休み。クラスメイトがざわざわと騒がしく各々のグループで和んでいる中、麗華は一人、昼食を終えてからの読書にいそしんでいた。別段寂しいということもなく、彼女にとってはもはや日常の一ページに過ぎない。だがその日は、妙なフレーズが耳に入ってきた。

 

「ほら見て! ここ書いてるでしょ。募集条件は同性が好きな女の子って!」
「やだ、千恵。応募するの? こんな変なアイドルグループ」
「そんな訳ないじゃん。ただ面白そうだなって思ったから見せたのっ。ゆうきプロってわりと大手なんだよ?」

 

 そして少女たちはまた別の話題へと話を移した。
 麗華は、ポーカーフェイスのまま、今しがたの会話を頭の中で咀嚼(そしゃく)する。
 ――同性が好きな女の子を募集して、アイドルにする? ……面白そうじゃない。
 くすっと笑みがこぼれるのを、抑えることができない。

         ◆

 ――軽い人たちばかり。うんざりだな。
 柳沢秀子(やなぎさわひでこ)は、コーヒー屋の店内で、いつも注文しているイングリッシュマフィンとブラックコーヒーを味わいながら、ノートパソコンを前にそう思った。目は、経済やらオーディオ機器やらの情報サイトの文字を次々と追っているが、先ほどから隣で騒がしい学生たちのおしゃべりが癪(しゃく)に障(さわ)って仕方がない。
(席を替えようか……でも、あからさまにそんなことをしたら、あの人たちの機嫌を損ねるかもね)
 自分のことなど別に気にもしないだろうという考えもあったが、目立つ行動もしたくなかった。柳沢秀子は、とにかく慎重な性分だった。眼鏡をかけて、後ろを結んで一つにした黒髪も、彼女が優等生然とした性格の持ち主であることを、外見から伝えた。事実、秀子は通っている進学校で、学年一位の成績を入学以来キープし続けていた。同い年の人間にさえ敬語を使う秀子のことを、ともすれば慇懃無礼な印象に受け取る人もいた。
 ――何か……なんでもいいから、俺の知的好奇心を満たしてくれるものはないのかな。
 ふと、マウスをクリックしていた手が止まる。
 見ていたサイトにバナー広告が表示されている。

 

 書かれているコピーは、『ガチで同性が好きな子、アイドルにならない?』。

 

(見つけた)
 秀子は、これは相当慎重に見極めなければならない情報ではあるけれど、場合によっては、自分の満たされない心を、丸ごと受け止めてくれるきっかけかもしれないと考えた。
 軽く興奮してきた自分の心を楽しみながら、バナーをクリックした。

         ◆

「あ~、もうしつっこいなぁ!!」
 姫川|(ひめかわ)ももは、その日三人目の芸能スカウトマンに声をかけられて、いい加減に堪忍袋の緒が切れていた。
「待って待って! 君なら絶対、売れっ子になれるって!」
「お断りです。さよならっ!」
 そう言って、ダッシュでスカウトマンから逃げた。
「はぁ、はぁっ……つっかれた~」
 無事逃げおおせて、立ち止まってから息を整える。
 明るいオレンジ色の髪の毛が、汗で額(ひたい)に張り付いている。
 何人ものスカウトマンが声をかけるだけあって、ももの外見は、一発で可愛いと形容できる容姿だった。華奢で少し小さな背のももは、友人いわく『人形のようで抱きしめたくなる』とのこと。他者にそういった感情を引き起こさせる自分のことを、ももは、これまでの人生で会ってきた同性異性問わずからの、半(なか)ばセクハラめいた言動でうんざりするほど理解していた。
「可愛いからって……それがなんだっつーの……」
 バッグからハンカチを出して、汗を拭いた。
(この見かけで得したことなんてほとんどなかった。好きでもない人たちに好かれたところで、それがモテるって言える?)
 ルックスから勝手に判断されて、チャラい男にナンパされるなんてことも日常茶飯事だ。そんな日々に、つくづく嫌気が差していた。
 深いため息が吐き出される。
 ――わたしはいったい、どうしたらもっと幸せに生きられるのかなぁ。
 とぼとぼと街を歩いていると、ふと目をやった張り紙に釘付けになった。

 

 集合! 「私たちは全員、女の子がガチで好きです!」

 

 ももの足がぴたりと止まる。
 でんと印刷されたその文章から他の文に目が移り、その張り紙が、新人アイドルグループのメンバー募集のものであるということが、ももの頭の中に入ってきた。
「……やば」
 姫川ももは、張り紙に記載されたプロダクション名など、必要な情報をスマホにメモした。

         ◆

「なんだこの人! めちゃくちゃ好みなんだけど……」
 西園寺葵(さいおんじあおい)は、ネットを巡回中に偶然見つけた、アイドル募集の特設サイトを見て、思わず感嘆の声をあげた。
 これまでにないコンセプトのアイドルグループを作る意図をコメントにして掲載している、その女性プロデューサーの顔写真を、食い入るように見つめた。
「新条……令子さん、か」
 葵は、青色に染めた髪をくしゃっと手で軽く触り、令子の文章を一気に読んでしまった。
「ぼくの、彼女になってくれないかなぁ」
 完全に一目惚れだった。
 西園寺葵のこれまでの人生における恋の相手は、すべて年上の同性女性だった。
 先日振られた相手などは、人妻だったりもして、その傷心もまだ癒えていない。
 ――オーディションか。新しい経験をしたら、この傷も癒えるのかな?
 葵は心を決めた。
 もしかしたら、この麗(うるわ)しの新条プロデューサーにも、気に入ってもらえるかもしれないという期待を込めて。

 


第三話「出会い」


 オーディションの開催日。
 集まった少女たちは、全員で五十二人。
 書類審査ではわからない魅力を見落とさないようにという目的で、一次審査から対面でのオーディションだった。女の子たちは、履歴書一通を持って、思い思いの格好で会場に集まった。
 気さくに会話をしている子たちもいれば、ライバル意識を持って一人ぽつんぽつんと離れている子たちもいる。
 御子柴悠里は、早起きしてばっちりセットした髪型に満足して、気分良くその場にいた。緊張はあまりしていなかった。それどころか、その場にいる少女たちが、皆、ライバルとはいっても『同性が好き』という同じ嗜好の持ち主なのだと考えるだけで、頭の中が虹色になっていた。
(あー、あの子も可愛いな~。あっちの子も……。なんだこれ天国じゃん!)
 油断すると顔がニヤけてしまいそうになるのをなんとか耐えて、涼しい顔を装った。
 眺めている女の子たちは、ひらひらのスカートで可愛らしさをアピールしていたり、悠里のようにボーイッシュスタイルで、かっこよさを追及しているタイプもいた。
 ――かっこよさなら、正直自信はあるんだけどな。
 オシャレに敏感で、髪型のセットにも余念がない悠里は、自分のルックスに対して、自信がないと言えばウソになった。
 活発さを他者に印象付ける、はっきりとした顔立ちは、美少女というよりはイケメンと形容した方がしっくりとくる。
(審査する人の目に適(かな)えばいいな~)
 気楽に構える悠里の視界に、その少女の姿が入った。
「えっ」
 悠里は思わず声を発していた。
 長い艶(つや)やかな黒髪の、明らかにその場にいる他の女の子たちとは一線を画すオーラを放つ少女。
 圧倒的な美貌の顔立ちを、惜しげもなく見せる。
 年齢は同い年ぐらいだろうか。華奢なその体躯(たいく)を包むワンピースすら、天女の衣の様相を呈した。
 少女は一人離れた場所から、周りを見ることもなく、手にした本に視線をやっていた。
 その美しさを、なんと形容したら良いのかもわからず、悠里の頭の中は真っ白になる。
「……すっごぉ」
 小さくうめくような声が漏れる。
 悠里の人生で、これまでに見たこともないような絶世の美少女の姿がそこにあった。
 ――きれいだな。こんな子と仲良くなれたら、めちゃめちゃ幸せだろうな~。
 心臓がバクバクいっている。
 だが、声をかけることはできない。
 御子柴悠里は、その外見からは想像できなかったが、小心者だったのだ。

         ◆

 ――『あれ』はいったい、なんだろう……。
 東郷麗華は、自分に熱視線を送ってくるその女の子に対して、どう対処したものかと思案していた。
 麗華は、いつも通りに本を読んでいた。が、ふと視線を感じて目を向けた先には、パンツスタイルで、ボーイッシュなルックスの少女がいた。視線が、ばっちり合った。
 従順な犬っころのように、興味津々な眼差し。
 そして、麗華と目が合うや否(いな)や、バッと視線を向こうに向けた。
 ――わかりやすい子。
 よくあれだけ恥ずかしげもなく、初対面の人間をじーっと見ていられたものだ。
 呆れるのを通り越して感心すらしそう。
 ――なんて言うか、天真爛漫?
 声をかけてくるだろうか。
 少し身構えて、待ってみる。
 が、チョコレート色の髪の女の子は、ぎこちなくあっちの方向を見たままで、麗華に近付いてくる様子はない。
 声をかける気はなさそうだ。
 ただその場を離れることもなく、じーっとしている。
 ――オラオラに見せて、ヘタレ、か。
 麗華の中で結論が出た。
 本に視線を戻す。そのボーイッシュ少女のビジュアルは、わりと悪くないわよ、と思いつつ。

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●最終的には、読後感の良いハッピーエンド百合です!

 

お買い上げも、読み放題も、ウェルカムです!!

 

GLアイドル

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